バクン、と厭に不正常な脈を打った心臓はその異常なリズムによって呼吸や血液の流れなどを狂わせた。
酷く呼吸が荒くなる。
隠れていたこの闇が、一層色濃くなっていって、まるで誰かに黒い布で目隠しされているようだった。
昭彦が両親の寝室に隠れてから、俺はその暗い暗い物置からゆっくりと出ると風呂場へと向かっていった。
薄暗い室内は外に設置されている電灯のお陰で何とか周りが見えているような状態だ。
風呂場のドアを開けると、何てことない、日常的によくみるシャンプーやリンスのボトルが並べられ、異常なほど今の状態には不似合いだった。
何処か懐かしいその不似合いさに泣きそうになりながら、俺は足元を見る。
水の張られた風呂桶の中に、歪な、サチの姿。ナイフが腹に深々と刺さったサチは苦痛に顔を歪めることなく、愛らしい顔を、此方へ向けていた。
気味悪いほど無邪気な笑顔。
「次の鬼は稔。次の鬼は稔。次の鬼は稔」
そういってナイフを抜き取ると俺は逃げるようにその場から離れ、昭彦の自室へと向かった。
そこではテレビが若手漫才師を映していてそれが先ほどの風呂場同様、酷く懐かしくて、俺は泣きそうになるのを唇を噛んで堪えると、床に胡坐をかいて目を閉じ、数を数え始めた。

