「――――――ッ!!!」
どこかから聞こえた声に声にならない叫び声をあげて、昭彦は階段に洗面器一杯の水を撒き散らして転がり落ちるように、玄関へと走っていった。
ガチャガチャとそのドアノブを引いて、押して、鍵を確かめて、それでも、
鍵は開いているはずなのに、扉は動かなかった。
「何で!何でだよ!!」
昭彦はパニックになって、ドアに体当たりしたりして、何とか部屋に出ようと試みる。
しかし、鈍い打音が続くだけで、一向に開く気配はない。
俺は一階のリビングへと向かって、そこにある庭へと出れる大きな窓に嵌め込まれたガラス目掛けて椅子を振り下ろした。
ガンッ
普通なら、割れる。
しかし、防弾ガラスのような鈍く重たい衝撃を手に感じたとき、俺は潔く気付いた。気付かされた。
『逃げることは出来ない』と。
続けるしかないのだ。
ひとたび脚を突っ込んでしまったのなら、最後まで。
玄関から鳴っていた打音もそれに気付いたのだろう、シン、と静まり返り、暫くしてリビングに昭彦が現れた。
お互いに何も言わず、暫くの嫌な沈黙に耐え伸びた後、昭彦は片手に持っていた洗面器にまた水を張った。
「……ちゃんと終わらせれば、大丈夫だよな」
言って、昭彦は震える手で水を止めた。
途中でやめられない。引き返せない。終われない。
ならば進んで、終えるしかない。
昭彦は言って洗面器を風呂場へと持っていった。
そしてリビングへと戻ってくると、一瞬俺の顔を見て、そして自室へと続く階段を上がっていった。
俺はその後ろを付いて歩き、濡れた階段を歩いた所為で水分を含んでいく気持ちの悪い靴下に構うことなく、もう止まれない事実に吐き気がしてきた。

