「なぁ、もう止めようぜ?」
ぬいぐるみと、果物ナイフと、塩水だけが置かれたテーブルを眺めながら、ポツリと俺が漏らす。
しかし昭彦はそんな言葉などお構い無しに、せっせと風呂桶に水を入れに行こうと風呂場へ向かおうとする。
「ダメだ!」
「だってよ…」
見慣れているはずの部屋に微かな違和感。
妙に落ち着けなくて、俺は立ったり座ったり歩いたりしてこの気味の悪い空気を気のせいだと思う事にした。
部屋の主がいなくなって、急によそよそしくった部屋の空気は、ベッタリと背中を撫で回してくる。
俺はまじまじと無残な姿の豚のぬいぐるみを眺める。
『ぬいぐるみは手と足が生えてるもじゃないとダメらしい、ピエロが来たら気持ち悪ぃけどやたらメルヘンな人形だったらウケルな』
俺は暫くそんな言葉を思い返していた。
そして、儀式を想像の中で進めて言った。
真っ暗な家の中、さらに真っ暗で窮屈な押入れで息を潜めている。
その部屋の真ん中で、歪な形の豚が。
片手に、自分の胸に突き刺された刃物を持って、おぞましいほど口の端を吊り上げて、場違いなほど楽しそうに、探している。
同じ場所に、心臓に、ナイフを突き刺す為に。
手は、殺す為に。
脚は、追いかけて殺す為に。

