「なんだよ、難しい顔して」


混線していた意識が、加代子ちゃんの声によって現実に引き戻される。


「あ、……なんでも、ない」


と、その時。


「お、高垣」


突然、背後から呼ばれた。

振り返ると、たまたま廊下を通りかかったらしい担任の先生が立っていた。


「今日日直だったよな。
悪いんだが、昨日授業で使ったこの本を図書室に返しておいてくれないか」


担当分野が現代文である先生から渡されたのは、昨日の授業で使った本だった。


「分かりました」


1時間目の授業開始までは、まだ20分ほど時間がある。

今、図書室に行ってしまおう。


「ちょっと行ってくる」


「おー、じゃ、荷物預かるよ」


「ありがとう」


加代子ちゃんの厚意に甘えてスクールバッグを預けると、私は本を持って教室を出た。