どこをどう訂正したらいいのかと、なぜかひとり盛り上がる加代子ちゃんを前に、そんなことを考えていた、その時。


「──あ、ヒロ見っけ」


不意に声が聞こえてきて、そちらに顔を向ければ、入り口のところに明希ちゃんが立っていた。


「きゃーっ」


教室のどこかから、黄色い悲鳴があがる。


でも、明希ちゃんが教室に来るなんて想定していなかった私は、完全に不意を突かれた。


「明希ちゃん、どうして?」


机に座ったままでいると、明希ちゃんがふっと笑いながらこちらへ歩いてくる。


「はは、驚いてる。
コタから昨日この辺に不審者が出たって聞いたから、一緒に帰ろって誘いにきた」


すると、不意に加代子ちゃんが私の腕を掴んで揺さぶってきた。

その声は、驚きの色に染まっていて。


「ちょっ、未紘……!
〝アキちゃん〟って、弘中先輩のことかよ!」


「うん、そうだけど……」


「ヒロのこと、借りるね」


なにかを言いかけた加代子ちゃんを遮るように、明希ちゃんが完璧な隙のない微笑を向ける。


「あ、どうぞ……」


「じゃ、行こ」


「え、あ、うん」


私が慌ててスクールバックを肩にかけるなり、ざわつくクラスメイトに目もくれず、私の手を引いて教室を出て行く明希ちゃん。

廊下を歩く背中には、教室でのざわめきの余韻がぶつかった。