あれは、私が中学二年生の時。

じんわり汗ばむ暑さが、爪痕を残そうと空気にしがみついていた十月初日の土曜日のことだった。


『ただいまー』


夜になり、行きつけのCDショップから帰宅してリビングに顔を出すと、待ち構えていたかのように、テレビの前に立っていたお母さんが一目散に駆け寄ってきた。


『あ、未紘、やっと帰ってきたのね……!
ねぇ、大変よ……っ』


掘り出し物のCDをゲットできて弾んだ気持ちでいた私は、お母さんの切羽詰まってうまく息継ぎもできていないその様子から、漠然とした、だけど言いようのない妙な胸騒ぎを覚えた。


『どうしたの、お母さん』


少し抜けているお母さんのことだから、無くし物の類いかなにかであったらいいななんて、嫌な予感が当たらないことを祈りながら見つめると、お母さんは瞳に躊躇を泳がせ私を見ないようにしたまま、涙が喉まで張りつめた、そんな声で告げた。


『……落ち着いて聞いてね。
さっき市内でバスが事故に遭ったんだけど、そこに大くんが乗っていたらしいの』


震える声で一息に告げられた内容に、私はぐんと目を見開いた。

さぁぁっと一気に体から血の気が引いていく。


『……………え?』