副社長の一目惚れフィアンセ

コンコン


沈黙を破るようにノックが聞こえて、秘書の女性が顔を覗かせた。

「社長、樺沢様がお見えなんですが…お通ししても?」

「ああ。通してくれ」

樺沢さんが来ることを知っていたんだろう。
社長には何の動揺も見られない。

莉乃さんのお父さんは険しい顔をして、失礼しますと頭を下げて中に入って来た。

「パパ…」

「莉乃。お前は勝手なことばかりして!」

怒り心頭な樺沢さんから、莉乃さんは罰が悪そうに顔をそらす。

「私は真司さんに呼ばれたのよ。今がチャンスだからって」

「水嶋社長、娘が勝手なことばかりして申し訳ありません」

樺沢さんは頭を下げ、その後厳しい目つきで莉乃さんを睨みつけた。

「莉乃、家政婦が言っていたよ。
『天星製薬の副社長夫人になるチャンスがまためぐって来た』と喜んでいたと。
だが、元々は飲みの席の談笑で少し話題が出ただけで、正式に水嶋社長からそんな打診は受けてはいなかった。今回に関してもそんな話はない。
婚約披露パーティーであれだけのことをしでかして、お前は天星製薬に喜んで迎えられるとでも思っていたのか?」

「違いますよ、樺沢さん。政略結婚じゃなくて恋愛結婚です。
社長の実子である僕と莉乃さんの恋愛結婚に何か問題がありますか?
会社がこんな状況だ。一般人と結婚する直斗さんじゃなく、僕が副社長に替わることになるのは当然ですよ」

真司さんは余裕の表情を崩さない。

婚約者になるかもしれない莉乃さんのお父さんに対しても、どこか見下しているような印象を受ける。