『××年4月20日

吉井くんに喧嘩売っちゃった。
「かっこいいからって素っ気ないの感じ悪いよ」って。
涼香によると、吉井くんは陸上部で、しかも部活のあとにバイトもしてるんだって。
それで疲れて眠いからボーっとしてるだけだったみたい。
んー恥ずかしい…明日謝ろう…』


「これ、吉井くんって俺の母親の苗字」

「ぷっ」

思わず吹き出した。

「お姉ちゃん、こんなキャラだったんだ」

「びっくりした。よく知らないクラスメイトにいきなり怒られるから」

ナオはそっと本を取り上げた。

「…ここからは、俺の名前いっぱい出てくるから。
明里が悲しい思いすると嫌だから、終わり」

パタンと閉じた日記の続きには、ナオとの思い出がたくさん詰まっているんだろう。

2人で過ごした時間がきっとたくさん綴られている。

嫉妬をしたり、悲しくなったり、そんな感情はない。

お母さんに愛されることを諦めたとき、私自身の『詩織』への過剰な劣等感も一緒に消えてしまったようだ。

それはきっと、ナオのおかげ。