溺愛スパダリフラストレーション




開いていた扉に先頭で姿を現した男に、口々に挨拶がかけられる。

それらに笑顔で返事をしていく男は、教室に視線を巡らせ、一点に目を止めた。

窓際、後方の席で頬杖をついて何を見るわけでもなく、ただ自分から顔を背けている彼女に近づく。



「おはよ、夏目」


彼女の友達はみんな笑顔を向けて挨拶を返してくれるのに、1番顔を見たい彼女は俺の声が聞こえないかのように外の景色から視線を外そうとしない。


──────ただいま


そっと彼女にだけ聞こえるように囁く。

周りから不自然に思われない程度にさりげなく彼女の耳元に近づいて。


ため息と共に、まどろっこしいくらいゆっくりこっちを見て彼女は口を開いた。


「…………なに」

おはようとかおかえりとか彼女からそんな、待ち望んだ言葉が聞けるとは思っていないけれど、それにしたって

「流石に淡白すぎない?」

「あーそ、」

久しぶりの彼女の瞳は相変わらず綺麗だけれども温度を宿してなくて、なにか声をかけようと口を開きかけるも

真逆の方の席で、俺の名を呼ぶ声たちがした。


ひらひら振られた手は、これ以上話掛けるなのサインで、仕方なく彼女に背を向けた。