緊張している私を見下ろす課長の端正な顔。

どんどん近づいてくると、唇が触れそうな距離で止まった。

目をギューっと瞑っている私の上で、課長がふっと笑う。


「この続きしたいか?」


「っ! そそそそそんなっ!」


「あっそ、したくないのか。残念」


そう言って立ち上がろうとする課長。


え?うそ…ちょっと待って!


思わず課長の腕を掴んでしまった。



「し、して欲しいです!」



「…っ」



驚いた顔の課長。


わ、私なななななんてことを!!


「冗談冗談! ウソです!!」


恥ずかしさで真っ赤になる私をよそに課長は顔を背けて肩を揺らし始めた。


「プッ、クックックッ! あははは!」


「…課長?」


「坂井、必死すぎ!」


「ちょっ…か、からかわないでくださいよ!」



だよね、こんな色気もない風邪っぴきの私を前にしても余裕たっぷりで、女のうちに入ってるわけない。




ムギュッと鼻を摘まれた。

「いだだだだ! なにするんですか!?」



「風邪が治ったら思う存分可愛がってやるよ」



「はい?!」



「そんな潤んだ目で胸元さらけ出して言われたら、理性で無理やり抑えてるの吹っ飛ぶけどいいの?」



胸元を見ると、いつのまにか熱の暑さでパジャマのボタンを外しているのに気がついた。


「!!」


「ほらっ、分かったらさっさと寝る!」


またクシャクシャと頭を撫で回すと、布団をバッサリと被らされてしまった。




な、何やってんの私!




ひと通り片付けを済ませて薬を飲ませてくれると、課長は土日も念のためゆっくりするようにと言って、すんなり帰って行ってしまった。





「はぁ…」


き、緊張した……。



いくら風邪でダウンしてたって、いや、してたからこそ、女の一人暮らしの部屋に男の人が入ってくるなんて緊張しないわけがない。



ましてそれが課長なら、なおさら。



『風邪が治ったら、思う存分可愛がってやるよ』


『理性で無理やり抑えてるの吹っ飛ぶけどいいの?』



うあーー!
思い出してまた顔が赤くなってしまった。



どういう意味!?


課長が私に対して理性で抑えるなんて…ウソだよね。


またイジワル言って、仕事押し付けようとしてるんだよきっと。



私も…あんなこと言うなんて…絶対、熱のせいだ。



もう少し寝よう。
寝てスッキリしたら、この熱も治るかな。