今日もあの夢…

パパとママが亡くなってから

ずっと見続けている。

私はちゃんと分かってる。

分かってるから…

私は人と関わらずに生きてくから。

朝の日課である3人への挨拶を

終えて、庭を見ると

バーベナの蕾が少し開きかけてるのが

分かって、自然と頬が緩む。

早く咲かないかなー。

るんるん気分で支度をして、

学校に着いた私が

いつものように花壇に水遣りをして

いると、突然誰かが声をかけてきた。

「花宮!おはよー!」

振り返った先で

ニコニコ笑うこの子は…

あ…同じクラスの…

「…おはよう、日下部くん」

っていうか、まだ誰も来ない時間だと

思ってたのに…

なんで?

手元の時計を見ても、間違いない。

いつもと同じ時間。

確かサッカー部って言ってたけど、

今日は朝練してる部活は見当たらない。

なのに、なんで遅刻常習者の

日下部くんがこんな朝早くから

いるの?

早く行ってくれると助かるんだけど。

誰かがいるとやり辛いし、

落ち着かない…

「花宮って、いつもこんな早くから

学校来てんの?」

何で話しかけてくるの?

この子、噂知らないのかな?

というか、答えるまでそこに

いるつもりなのかな…

早く私から離れて欲しい。

まあ、答えたら行ってくれるかな?

「日曜日以外は」

「………」

まさかのスルー!?

何なのこの子…

何もしないなら早くどこかに

行って欲しいんだってば!!

そんな私の気持ちを無視して

話しかけてくるこの子。

「花好きなの?」

えっ!?また質問!?

いつまで続くの、これ…

内心溜め息をつきながらも

私は返事した。

「好き」

今度こそ終わり!

早く行って!

気が付いたら水遣り終わっちゃった。

私の朝の楽しみが、日下部くんに

よって壊された…

そしてものすごく疲れた。

早いとこ片付けて幸ちゃんに

朝ご飯あげに行かなくちゃ!

それに、昨日の雨で地面はドロドロ

だし、せっかくの白が汚れちゃう!

私がそんな事を考えている間も

日下部くんは動く気配を見せない。

まさか、一緒に教室行こうなんて

言いだしたりしないよね?

でも、私かわすの得意だから

きっと上手く出来るはず!

手早く片付けて去ろうとすると…

「花宮、終わったんなら

一緒に教室行こうよ!」

やっぱり…そう来たか…

何となくそうじゃないかとは

思ってたけど、本当に言われるとは

思わなかった。

なんかこの子…やりづらいんだけど。

内心溜め息をつきながら

でも…私はいつも通り答える。

「私今から用事あるから」と…

そう言って去ろうとした瞬間、

日下部くんが手を掴んできた。

バクバクと鳴る心臓を落ち着かせ、

ゆっくり振り返って「なに?」と

尋ねると、ニコニコしながら

「じゃあ、俺も一緒に行っていい?」

首を傾けて問い掛けてくる

日下部くん。

いつもなら上手くかわせるのに、

日下部くん相手だと通用しない!

なんで!?

混乱する私に畳み掛けるように、

「ダメ?」と聞いてくる日下部くんの

瞳がうるうるしてて、とてつもなく

断りにくい。

でも、あそこは…

私と幸ちゃんの居場所。

どうしたらいい?

日下部くんを傷付けずに

ここを離れる理由…

その時だった。

「陽人?あんたこんな早くから

何してんのよ、珍しい」

「雪でも降るんじゃねーか?」

南野さんと羽柴くんだ。

今しかない!

日下部くんの気が、2人に向いた瞬間

私は掴まれた手を振り解いて、

早口でまくし立てた。

「急ぐから」

「あっ!花宮!?」

背中に日下部くんの声が聞こえたけど

私は聞こえないフリをして、

全速力で走った。

久しぶりに走った気がする…

幸ちゃんの所に着く頃には、私の

足はガクガクで息も

すごく上がっていた。

朝からドッと疲れた…

体力的にも、精神的にも。

フラフラな足取りのまま、幸ちゃんの

寝床を覗くと、丸まったまま

眠っていた。

見た所、身体は綺麗な白のままだから

きっと昨日はここから動かずじっと

してたのかな?

朝は大抵眠っていることが多い

幸ちゃんの為、ご飯入れを常に

鞄に入れている私は、

朝ご飯を入れて寝床に置いた。

濡れた傘をそっと畳んで鞄にしまい、

「また、お昼にね」と小さく声をかけて

教室に向かった。

昼休み、私はいつも通りお弁当を

抱えて、幸ちゃんがいる

校舎裏に向かって歩いていた。

すると、バタバタと大きな音が

近付いてきて…

音が止んだと思った瞬間、

ポンっと肩を叩かれた。

「きゃっ!!」

あまりに突然で、気を抜いていた私は

思わず大きな声を出してしまった。

「ごめん!!びっくりした?

驚かせようとしたんじゃないんだ。

ほんとにごめん!!」

えっ…この声…

ゆっくり振り返ると、そこにいたのは

頭を下げた日下部くんだった。

今日はやたら日下部くんに

声を掛けられてる気がするけど、

今度は一体なんなの?

「私に何か用?」

動揺を悟られないように、

私はいつも通り感情を消して

そう尋ねると、ばっと顔を上げて

「お昼一緒に食べない?

あっ、もちろん2人じゃなくて

同じクラスの蓮司と風花も一緒に

だけど…」

わざわざその為に、教室から離れた

ここまで走って来たの?

せっかくのお誘いだけど…

「お昼は一緒に食べる

約束してる子がいるから」

断る時には決まってこう言う、私。

じゃあ、と背を向けると

私の前にまわり混んできた

日下部くんに私は呆然とする。

今まではこれで、すんなりと

断れてたのに、日下部くんには

何故か通用しない。

なんで!?

もしかすると、日下部くんは

今までで一番手強い人かもしれない…

とういう…変な人。

怪訝に見つめても表情ひとつ

変えない日下部くんを

心底関わりたくないと思った。

「じゃあ、その子も一緒に誘って

食べようよ!」

そう言ってニコニコ笑顔の日下部くん。

朝も思ったけど、日下部くんって

かなりしつこい…

こういう人、本当に苦手だ。

今までは遠回しに断っても

通用してたけど、日下部くんは

規格外の要注意人物だ。

私の中の危険人物センサーが反応

してるもの。

心が痛むけど、ここははっきりと

跳ね返すくらいの言葉で…

「私はその子と2人だけで

食べたいの。

これからもその子とだけ食べるから、

誘ってもらっても無理なの」

私は敢えて、「だけ」を強調して

答えた。

私と日下部くんの横を通る人達が

ひそひそとこっちを見ながら

話す声が聞こえた。

「花宮さんってほんとに冷たいよね」

「ほんと…日下部くんがせっかく

誘ってんのにさー。

ちょっと可愛いからって

調子乗りすぎでしょ!」

そんな事言われなくても分かってる。

でも、だって仕方ないじゃない…

私と一緒に居ると、必ず

みんな居なくなるんだから。

手の届かないところに…

あんな想いもうしたくない…

「急ぐから」

寂しそうな瞳をした日下部くんに

背を向けて私は足早に去った。