1年の頃から、噂の的になっている

女の子がいる。

俺も廊下で何度かすれ違った

事があって、噂通り無表情だったけど

俺にはそれが悲しい表情に見えた。

泣いてないのに

涙を流しているように…

みんなから《アイスドール》と

呼ばれていた彼女。

無口で無表情、笑ったところを

見た奴は1人もいないらしい。

昼休みのご飯を誘っても、何かしら

理由をつけて断っていて

話しかけたら話すけど、

その子から話すことは1度もない。

美人で近寄りがたい雰囲気があるって

男友達は言っていたけど…

俺は1年の夏頃、朝練に参加中

その子の笑顔を1度だけ

見たことがある。

園芸部に所属する、その子は

汗を拭いながら、懸命に水遣りを

していて、育った花を愛おしそうに

眺めて微笑んでいた。

「笑ってるじゃん…」

男友達や噂で聞くその子と

水遣りをして微笑むその子が

あまりにかけ離れていて、首を傾げた。

当時、その子と同じクラスだった

幼馴染の蓮司に聞いてみたいと思った。

「なあ、同じクラスだった花宮って子

覚えてるか?どんな子?」

蓮司は、読んでいた漫画から

一瞬視線を上げて一言。

「無口で無表情だけど、優しい奴」

「は?無口で無表情なのに、

優しいの?どんなとこが?」

俺の質問責めに溜め息をつきながらも

そうだなーと天井を見上げて、

「誰かが気付かないうちに落とした

プリントを何も言わずに、そっと

そいつの机に置いたり…

あとはー…困ってる奴を見ると

手を貸したり?そんな感じ」

「へえー…」

蓮司は野球以外に興味を示さないけど

人の事は良く見てるよな。

それにしても…

噂と全然違うじゃん。

だって笑ってたし。

うーんと1人唸っていると…

珍しく蓮司から聞いてきたかと思えば

「陽人、花宮が好きなのか?」と

真顔で言う。

好き?俺がその子を?

分かんねー…

「いや、なんか周りの男友達とか

噂で聞くのとは違うから、

なんでかなって思ってさ。

こないだ朝練中に花壇の花に水遣り

してるとこ見たんだけどさ…

笑ってたんだよなー」

俺の言葉に蓮司は一言。

「詳しくは知らねーけど、なんとなく

花宮見てると、敢えて人と関わること

を避けてる節がある。

なんか、そうせざるを得ない理由が

あるんじゃねーの」

敢えて人と関わることを

避けてるって何だよ…

そうせざるを得ない理由って

なんだろ?

人見知り?人間不信?

他に何かあるのか?

「あー!分かんねー!」

頭を掻きむしる俺に蓮司は笑った。

「そんなに気になってるって

やっぱ好きなんじゃねーの?

どうも思わない奴の事なんて

普通は考えねーだろ」

「そうかな…

分かんねーけど、笑った顔は

可愛かった…

どんな理由があるかは知らないけど

俺が笑わせてやりたい…とは思う」

俺の言葉に、蓮司は

直球ど真ん中ストレートな言葉を

投げてきた!

「俺がって事は、他の奴じゃなく

って事だろ?

それ、完全に好きなんじゃねーか」

野球以外に興味ないくせに、

偉そうだな、こいつは。

でも、確かに他の誰でもなく

俺が笑わせてやりたいって思ってる

事は事実だ。

でも、これって好きって事に

なるのか?

分かんねー…

けど、気になる。

廊下で何度か見た悲しい表情と

花を見て優しく微笑んだ彼女が

頭の中に浮かんで

どっちが本当の彼女なのか…

知りたいと思う俺がいる。