新しいクラスの張り紙を確認して

私は2階の1番奥、2年1組の教室に

たどり着いた。

座席表を黒板で確認して

座ったのは廊下から3列目の1番後ろ

ぞろぞろと入ってくる人達は、

私を見てびっくりした様子。

お化けじゃないんだから、そこまで

驚かなくても…と思うけど

私は見ない振りをして、鞄から

取り出した文庫本に視線を落とした。

キーンコーンカーンコーン…

ほぼ全員が揃ったと同時に鳴る

チャイムの音に、私は読んでいた本を

閉じた。

ざわざわしている人達を見る事なく、

私は黒板の上の時計を見つめていた。

ガラガラッ…

あ、芦屋先生だ。

芦屋先生は1年の時の担任で

数学が担当だ。

芦屋先生が教壇に立って教室を

見渡して、溜め息をついた。

「あいつはまた遅刻か…

南野!羽柴!」

あいつ?…て誰?

名指しで呼ばれたのは、私を

挟むように座っている右隣の男の子と

1列向こうの左側の女の子のようで、

「「知りません!」」と同時に

発した2人も溜め息をついている。

この2人と仲のいい誰かなのかな?

内心首を傾げていると…

ガラガラッ!!

「セーフ!!」と大声で叫びながら

入ってきた男の子。

間髪入れずに芦屋先生から、

怒号が飛んだ。

「アホ!!間に合っとらんわ!!」

その声に教室中が大爆笑に包まれた。

2人は呆れているようで、

大きな溜め息をつきながら

知らんぷり。

「えっ!?マジ!?」

とびっきり目を丸くして驚いている

男の子は、ガックリと肩を落として

席についた。

左側の南野さんと右隣の羽柴くんは

私を挟んで会話している。

「蓮司、あいつ正真正銘の馬鹿だね」

「今に始まった事じゃねーよ。

昔からだ」

「だよねー」

2人の会話から察するに、

あの子は遅刻の常習者で、それは

昔からって事と、おそらく気心の

知れた友達?なのかな…

まあ、私には関係ないけど。

そのあと

体育館で行われた始業式を終えて

教室に戻ると恒例の自己紹介。

こういうのは、あまり得意じゃない…

というか…

目立つ事も、自分から

話すのも苦手だから。

そんな私は心の中で

溜め息をつきながら、表情を消す。

出席順に始まり、遅刻常習者の

男の子の番。

勢い良く立ち上がった男の子は、

ニコニコしながら元気に、

「日下部陽人(くさかべはると)です!

サッカー部所属で、趣味は…

趣味はー…何だったっけ?

思い出したら言います!

1年間よろしくー!!」と

ご満悦の様子。

だけど、周りは爆笑の嵐。

日下部くんは、明るめの茶色の髪を

ポリポリ掻きながら、太陽のように

明るく元気いっぱいで

なんか向日葵みたい…

サッカー部だけあって肌は小麦色に

日焼けしていて、

ニコニコ笑うその顔は、目が

クリクリしてて、カッコイイという

よりは、可愛い…って感じだ。

そして、どんどん進んで行って

今度は右隣の羽柴くん。

立ち上がると、さすがの私も驚いた。

見上げるのが辛いほど背が高い。

一体何センチあるんだろう?

「羽柴蓮司(はしばれんじ)。

野球部所属。よろしく」

羽柴くんは、日下部くんとは

正反対なタイプかな?

元気いっぱいの日下部くんに対して

羽柴くんは寡黙な感じ。

羽柴くんも運動部だけあって、

肌は小麦色…というより真っ黒に

近いくらいに日焼けしてる。

短髪で黒い髪が寡黙な羽柴くんに

ぴったりな気がする。

とりあえず…

口数が多くなさそうで、内心ホッと

した。

1年の頃は、やたら意味のない話を

振られて参ったもんね…

あ、次私だ。

「花宮日和です。

園芸部所属です。

よろしくお願いします」

はあー、終わった…

今日の私の仕事はこれで終わりっと!

紹介も終盤というところで、

先程の女の子、南野さんだ。

「南野風花(みなみのふうか)です!

陸上部に所属してます。

よろしくー!」

黒髪ショートがすごく似合ってるな。

背は私より少し低い?かな。

可愛い感じの子だ。

全ての紹介が終わったところで

チャイムが鳴った。

「明日のHRでクラス委員諸々

決めるからな!

じゃ、解散!!」

芦屋先生の声に続々と立ち上がる

人達に紛れて、私も教室を出た。

下駄箱で靴を履き替えて、

私が向かったのは、校舎裏の大きな

木の下。

普段からあまり誰も寄り付かない

そこに、私を待っているであろう、

あの子に会いに行く。

「あ、いた…」

私はゆっくり近付いてしゃがみ込んだ。

ポケットに忍ばせたご飯を出すと、

茂みから出て来たのは、1年の頃から

ここにいる白猫ちゃん。

人と関わることを避けているうちに

見つけた、この子の居場所でもあり

私の居場所でもある。

とても大切な場所…

1年の付き合いで、すっかり私に

懐いたこの子に私は密かに名前を

つけている。

「幸ちゃん」、女の子だ。

幸せな人生を生きて欲しいと

願ってつけたんだ。

「幸ちゃん、おいで。

ご飯だよー」

私が呼ぶと、ひょこひょこ歩いて

やって来て身体を擦り付けてくる。

可愛いー!!

お腹がいっぱいになったのか、

お腹を上に向け、甘えてくる幸ちゃん。

「今日は夜から雨が降るらしいから、

雨避けの傘と幸ちゃん用のタオル

持って来たよ。

濡れないようにね」

私は鞄に入れて置いた傘を広げて、

茂みの中にある幸ちゃんのお家…

ダンボール箱に傘を差し、中に

タオルを忍ばせた。

沢山撫でて遊んだ私は、幸ちゃんに

手を振り、家路に着いた。