私の過去を話してから数日…

いつもと変わらない日常に

私は安堵していた。

みんながあんな話を聞いても

変わらず傍に居てくれてるから…

例え日下部くんに想いを伝えることが

出来なくても、傍でみんなの笑顔が

見れるだけで幸せ。

日下部くんにとっては私といると

辛いかもしれないけど…

日下部くんは素敵な人だから

きっと相応しい女の子が現れて

幸せになれると思ってる。

その時、私の気持ちは

幸せに溢れてるって思う。

だって好きな人が笑顔でいる事が

私の幸せなんだから…



この時はそう思ってたのに…

今の私は何故か心がざわざわしてる。

それは、日下部くんが私ではない

女の子にあの眩しいほどの笑顔を

向けているのを

目にしてしまったから…

自分で望んだことなのに

こんなに心が落ち着かないなんて

矛盾してるな。

私はその光景を見ないように

窓の外に目を向けた。

この気持ちに蓋をして

想うことをやめる決意をして

私は夏休みを迎えた。

新学期が始まるまでにこの想いを

自分の中から消してしまえば

落ち着かない気持ちもおさまるはず。

夏休みに入ってすぐ、風花ちゃんから

海に行こうと誘いを受けた私は

今、ショッピングモールにいる。

水着を買うためだ。

友達とこういう所に来るのは初めてで

緊張と不安で心臓が痛いくらいに

鳴っている。

目に入る全ての光景がキラキラして

私には眩しすぎるくらいだ。

「日和はどんな水着にするか

決めてる?

私はビキニデビューしたいんだよね!

少しでも可愛いって思われたいから」

そう言う風花ちゃんは頬を染めて

にっこり微笑んだ。

こんなに可愛い風花ちゃんが

そんな風に思ってるなんて

知らなかったな。

「それって、周りの人?

それとも…

もしかして好きな人、とか?」

私の問いにコクンと頷いた

風花ちゃんは頬を染めながら

蓮司が好きなの…と呟いた。

「えっ!?羽柴くん?」

「そうなんだー!

小さい頃からずっと一緒でさ

普段から口数少なくて無愛想だけど

でも本当はすごく優しくて

頼り甲斐があって…

それに、スポーツも勉強もできるから

女子からモテモテでね。

蓮司は私の事なんてただの

幼馴染としか見てないって分かってる

んだけどさ…

内心ではヒヤヒヤもんだよ。

自分じゃない女の子と付き合ったら

って…

だから、少しでも可愛いって

幼馴染としてじゃなくて

1人の女の子として意識して欲しくて」

「そうだったんだ…

でも、私は風花ちゃんの事

すごく可愛いって思ってるよ?

それに優しくて思い遣りがあって

噂に惑わされずに

こんな私に友達になりたいって

言ってくれたから…

応援してるからね?

私にはそれしか出来ないけど

いつでも話聞くから!」

早口でまくし立てた私は

風花ちゃんの両手をギュッと

握った。

私の勢いに驚いて目をパチパチさせて

いる風花ちゃん。

あ!私何でこんなに

必死になってるんだろ!

固まっちゃってるよ、風花ちゃん。

そんな私にギュッと握り返しながら

ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ風花ちゃんは

やっぱり可愛い。

「日和、ありがとう!

すごく嬉しい!!

頑張るね!」

そんな風花ちゃんに私も

うん、と呟いて笑った。

水着売り場は女の子で溢れかえり

やっぱりキラキラしていて

自分が場違いに思えてくる。

こんな経験初めてだからなー…

風花ちゃんに手を引かれながら

店内を見渡す。

風花ちゃんはお目当ての

ビキニコーナーで

あーでもないこーでもないと

一生懸命で、私は微笑ましく見ていた。

好きな人にはやっぱり可愛いと

思って欲しいんだろうな…

女の子特有のそういう気持ちは

私には初めてで正直混乱してる。

自分を可愛いと思えないし

人を不幸にしてしまう自分は

こんなキラキラした場所に居ること

自体も……

気後れしてしまう自分に苦笑するしかない

だけど、風花ちゃんの可愛く見られたいと

頑張る姿は私の心を温かくしてくれている

頑張る意味って人それぞれだ

自分の為に頑張る人

誰かの為に頑張る人

目標や夢の為に頑張る人

どんな事でも何かに一生懸命頑張る人は

キラキラ輝いて眩しい

苦しかったり悔しかったり悲しかったり

きっと色々あるはずだ

それでも前を向いて歩こうと

少しでも前にと踏ん張る人を見ると

応援したくなる

その頑張った先でその人達が

笑顔でいられますようにって……

水着選びに夢中の風花ちゃんに

私は心の中で応援していた

……そして私はというと

そもそも自分に興味がなかったから

どんな色が好きでとか

形はこれが好きっていうのが

全く分からない

目の前に広がる色とりどりの水着に

圧倒されている

とりあえず目の前にかけられている

ひとつの水着を手に取ってみた

…………

パステルカラーの水玉模様

ストラップが部分に小さなパールが

付いているビキニ

これを自分が着る事を想像してみたけど

全く似合う気がしない!!

思わず固まってしまった私

「日和?

その水着にするの?」

横からひょっこり現れた風花ちゃんに

私は正直に答える

「これを着た自分が想像出来ないの…

これが似合うのかどうかも

そもそもこの色が好きなのかも……」