その日の放課後、それぞれに

部活を終えたみんなが

私の話を聞く為に時間を割いて

私が1人で暮らす家に来てくれた。

ピンポーン!

あっ、来た!!

廊下を走りドアを開ける。

ガラガラッ…

「「「お邪魔しまーす」」」

異国の世界に迷い込んだみたいに

不思議そうにキョロキョロする

みんなに私は声を掛けた。

「あんまり片付いてないけど

入って?

廊下の先に居間があるから

そこで待ってて」

この家に私以外の人がいると思うと

なんだか変な感じ。

冷蔵庫から自家製のハーブティーを

取り出してグラスに注ぎ

みんなの待つ居間に向かった。

「これ良かったら飲んで?

自家製のハーブティーなんだけど

クセはないから飲みやすくは

なってるから」

畳に座るみんなに渡して

私は目を閉じて呼吸を整えた。

怖いけど、私の話を聞くと

言ってくれたから…

それでもし離れてしまう事になっても

今日までの幸せな毎日が

私の中に残る限り、生きていける。

一歩だよ、日和!

「えっと…何から話せばいいのか…

今まで…みんなと出会うまではね

自分の事を誰にも話した事ないから

うーん…緊張しちゃって!」

テーブルの下で震える手を

握りしめながら私は話した。

両親と遊園地に向かう途中で

事故に巻き込まれて2人が

亡くなった事…

葬儀でママのお姉さんから

罵声を浴びた事…

身寄りのない私を引き取り

育ててくれた律さんの事…

そして、その律さんも

高校に上がる直前に亡くなった事…

順を追ってゆっくり話す私を

口を挟む事なく3人共

真剣に聞いてくれた。

日下部くんは苦悶の表情だし

風花ちゃんは泣いてしまうし

羽柴くんに至っては相変わらずの

無表情だけど…

重かったかな…こんな話。

その時、みんなの視線が

真っ直ぐに私に向けられていて

やっぱり重かった、かな?

「ごめんね?

急にこんな話しちゃって…

だけど、慣れって凄いよね。

今でもたまに傍に

いるんじゃないかって

呼んじゃったりして…

馬鹿だよね」

ははっと自嘲の笑みを零すと

風花ちゃんがポツリと零した。

「本当は日和のそういう事情…

ここにいる私達知ってたの」

えっ…?

この話は私と学校の先生位しか

知らないはずなのに…

不思議に思って首を傾げると、

風花ちゃんが言った。

「私の友達に日和と同じ小学校に

通ってた子が居て、その子から」

だけど…と言って顔を上げた

風花ちゃんは真っ直ぐな視線を

向けて私を見て、

「仲良くなって日和から

話してくれるまで

待ちたかった…

間接的に聞くんじゃなくて

日和本人から。

だから、重いなんて思わないし

むしろ、話しにくい事を

話してくれた事が嬉しいんだよ?

それだけ私達を信頼してくれてるって

事でしょ?」

風花ちゃん…

怖かったけどやっぱり話して

良かったって思える。

それは誰でもなくこの3人だから…

「ありがとう…

でも私、みんなに謝らなきゃ

いけない…

聞いてくれる?」

頷くみんなに私は続けた。

「それでね…

叔母さんに罵声を浴びせられた日から

その夢を今もずっと見るの…

そのうちに律さんが亡くなって

ああ、叔母さんの言う事は

本当だったって思うようになって…

人と関わる事が怖くなった。

私が大切に想う人は必ず不幸になるし

居なくなる…

だったら初めから関わらないで

大切な人や物を作らなければいいって

そう考えたの。

誰にどう思われても

誰かが私のせいで傷付いたり

苦しむのを見るよりは遥かに

良かったから…

《アイスドール》なんてあだ名を

付けられてるって知った時は

驚きもあったけど

そのおかげで誰も私に

近づいてこなかったから…

だけど、日下部くんは

やたら私に関わろうとしてくるから

遠ざけるのに必死だったの。

傷付けるって分かってても

もう2度と家族を亡くした時の

気持ちにはなりたくなくて…

私は誰かの笑顔を奪う事は

したくなかった。

たくさん酷いこと言って

ごめんね?日下部くん…」

首をふるふると横に振る日下部くん。

謝って許される事じゃない事は

分かってるし

許されようなんて思ってない。

だけど、私を暗闇から引っ張って

みんなと出会わせてくれた

人だから…

頭を下げる私に初めて

口を開いたのは

羽柴くんだった。

「陽人は数歩歩けば忘れる程の

馬鹿で鈍感な奴だから

気にすることねーよ」

サラッと毒付く羽柴くんに

私はポカンとしてしまった。

同意するように風花ちゃんも

頷いた。

幼馴染だからこそ言える言葉

なんだろうけど…

さすがに馬鹿で鈍感っていうのは

日下部くんが可哀想な気が…

チラッと日下部くんを見ると

明らかにシュンとしてて

いつかの時のように耳と尻尾が

垂れて見える。

可哀想だけど、なんか可愛い…

って!!違ーう!!

「私は…日下部くんは

太陽みたいに明るくて

温かい、優しい人だって

思ってるよ…?」

シュンとする日下部くんを

覗き込んで素直に思った事を

伝えると…

「日和ー!そんな事言ってくれるの

は日和だけだー!」

無意識なのか急に抱きつかれて

頭がクラクラする私。

スリスリと大きな身体で

引っ付く日下部くんは

やっぱり犬みたいで

邪険に出来ない可愛さがあって…

でも、ドキドキするから

離れて欲しい!

そんな私を見兼ねて

羽柴くんが首根っこを掴んで

引き剥がしてくれた。

危なかったー!!

キュン死にするところだった…

「お前振られたくせに

気安く抱き着くな」

「そうだ!そうだ!」

羽柴くんと風花ちゃんは

日下部くんを責めている…というか

いじり倒している。

違う…本当はすごく好きって

本当は伝えてしまいたいのに

伝える事が怖くて出来ない私は

曖昧な笑顔で日下部くんを見る

事しか出来ない。

ごめんね…

だけど、私より日下部くんを

幸せに出来る人はきっといるから。