日下部くんに嘘を吐いた日から

何事もなかったように

日々は過ぎて行って

夏休みはもう、すぐそこまで

迫っていた。

日下部くんは私の言った通り

今までと変わらずに接してくれた。

だけど、私に好きな人がいると

思っている日下部くんは

『弁当はもういいから!

日和の好きな奴に誤解

されたら大変だからな!』

笑顔で言ってくれた時

私はもう、取り返しのつかない

所に足を踏み出したんだと思った。

たかがお弁当だけど

好きだって気付いた私には

その小さな繋がりさえも

失ったような気がして

胸が締め付けられた。

手が届く距離なのに

伸ばしてはいけない人。

近いようで遠い

私と日下部くんの距離。

だけど…

私が傷付くのは

お門違いもいいところだ。

私がそう仕向けたんだから…

日下部くんの笑顔が見れるなら

それだけでいい。

もう2度と大切な人を

失いたくない。

3限目が終わった休み時間中

ボーッと外を眺めていると

「…和!日和ってば!」

「え…あ、ごめんね。

ボーッとしてた…

どうしたの?」

振り返った後ろの席の

風花ちゃんは頬を膨らませて

何故か怒っているように見えた。

話しかけられていた事に

気付かずにいたから、かな?

「日和、最近どうしたの?

元気ないよ?

笑わなくなったもん…

何か悩みがあるなら話して?

友達でしょ?」

あ、心配してくれてたのか…

でもそんなに態度に出てたかな?

笑えないほどに…

仮面をつけることは

息をするのと同じくらい

簡単だったはずなのに

日下部くんや風花ちゃん、

羽柴くんと一緒にいる事に

慣れて仮面をつけることも

忘れてたみたい…

それはきっと3人が

ありのままの私を引き出して

くれたからだよね。

親身になってくれる風花ちゃんは

出会った時からそうだった。

当時友達でもなかった私の為に

泣いたり怒ったりしてくれて

友達にもなってくれた

優しい女の子。

そんな風花ちゃんに心配かけて

なにやってるんだろう、私。

「そんな事ないよ?

私は元気!

心配かけてごめんね?」

「そんなの嘘…

日和は自分で思ってるより

態度に出るから分かるもん!

私じゃ日和の役に立てない?」

今にも泣き出してしまいそうな

風花ちゃんから出た言葉に

胸が締め付けられた。

役に立てないなんて絶対に

無いし思わないのに…

むしろ役に立ててないのは

私の方で、何かしてあげる事も

出来てない…

風花ちゃんは優しいから

そんな風に思っちゃったんだね。

ごめんね…