俺の腕の中で意識を失った花宮を

保健室に担ぎ込み

風花と蓮司に連絡した。

2人が来る間、俺は考えていた。

意識があった時の花宮は

今までに見た事ないほど

取り乱して

辛辣な言葉を使って

傷付けていた、自分自身を…

ずっと悲しい目をしてる事は

分かってた…

分かってたつもりだった。

でも

それがどれだけの悲しみか

ちゃんと見えていなかったんだ。

でも、花宮は俺の知らない

大きな傷を抱えている事だけは

分かった。

それで深く傷ついている事も…

ベットで眠る花宮の顔は

目元が真っ赤で

頬には涙の跡がいくつも残っていて

顔色も良くない。

自分を疫病神だと言った花宮が

脆く儚く見えた。

どんな事でも受け止めたい…

そう思った。

ベットに眠る花宮の傍に

腰を下ろしてすぐ

風花と蓮司は来てくれた。

「悪いな、2人共…」

眠り続ける花宮の傍らに立つ風花は

涙目で、蓮司は表情を変えないまま

花宮を見つめていた。

カーテンを引き、保健室の椅子に

腰掛けた2人と向き合い

俺は話した。

花宮が何かに深く傷ついていて

誰かと関わる事を拒んでいることを…

どうしてそう思うのかが

正直俺には分からないけど、

花宮は誰がなんと言ったって

俺にとっては優しくて情の深い

愛情を持ってる子だと思ってる。

だから、守ってやりたいと…

だから、そんな花宮が

これ程までに取り乱した理由を

知るべきだと思う。

だって…

俺はこれからもずっと

花宮と関わっていきたいんだから。

愛おしくて大切な女の子だって

分かったから。

絶対に花宮の手を離してはいけない…

目に映るものが

色鮮やかな世界に変わるように

花宮が拒んでも

俺が光を持たないあの目に

光を見せてあげたい。

どんな事があっても

変わらないものがあること…

1人になんか絶対にしないってことを。

それを俺は見せてやりたい。

俺自身の手で…

固く誓う俺に、風花は

あくまでも噂だと前置きをして

話し出した、花宮の事を。

「私の友達が、小学校の時

花宮さんとたまたま同じクラスで

とっても明るくて笑顔の絶えない

優しい子だったらしいの。

でも…

小3の時、事故で両親を亡くして

それからすぐ、花宮さんは

隣町であるここに

引っ越ししたんだけど、

その友達曰く、月に1度の文通を

してて、内容は

引き取ってくれた人と家族同然に

仲良く暮らしてるって事だった。

だけど…高校に上がる直前

急死したらしい、その人。

それからは花宮さん…

その家に1人で暮らしてるみたい」

俺は言葉も出ず、カーテンの

向こうで眠る花宮を見た。

すると、話は終わってないと

言う風花を横目に、俺は

花宮の居る方を見続けた。

「それで、ここからが本題なんだけど

両親の葬儀の時、参列したその子が

花宮さんに声を掛けようとした時

怒鳴りつける人がいて

その人は言ったらしいの…

『あんたさえ産まれてこなければ

小春は家を出ることも

こうやって死ぬことも

なかったのよ!!

なのに…なんで、あんただけ

生き残ってるのよ!

あんたが死ねばよかったのに!!

この疫病神!!』って

喚き散らして帰ったらしい…

その時の花宮さん…泣く事もなく

ただ震えてたそうよ」

亡くなった事に泣く事も出来ず

小さな花宮がどんな思いで

その言葉を受け止めたのか

それは大切な家族を失ったばかりの

悲しい心に追い打ちをかけたのかも

しれない。

考えるだけで心が痛んだ…

急に1人ぼっちになって

寂しくて悲しい花宮に

どんな事情があったとしても

その言葉はきっと幼い花宮を

傷付けたはずだ…

それでも、引き取ってくれた人の

お陰で楽しく過ごしていると

文通相手に手紙を寄越した花宮。

それはきっと引き取ってくれた

人が寄り添ってくれたからだろうな。

でも、その人も亡くなって

花宮はまた1人ぼっちになったのか…

「それからよ、花宮さんが

笑わなくなったのは…

友達だったその子も

同じ高校で再会して

声を掛け続けたみたいだけど

駄目だったみたい」

俺の視線を追うように

風花も花宮に視線を送る。

その時、蓮司が口を開いた。

「これはただの俺の予想で

本当のことは花宮しか分からねーけど

多分…

葬儀で喚き散らした奴の言葉が

花宮をそうさせたんじゃねーか?」

「うん…私もそう思う。

だから、花宮さんは人と関わる事が

怖いんだよ…

自分に関わった人がいなくなったら

また誰かを亡くしてしまうって」

何の確信もないけど

優しい花宮なら、きっと

誰かが傷付く姿を見るくらいなら

自分は1人でも良いって

思ったんだろう…

唯一の拠り所であった猫も

亡くなって

やっぱりって思ったからこそ

俺に関わるなって言ったんだ…

花宮を縛り付ける言葉が

今も花宮を苦しめてる。

それが俺の心をきつく締め付けた。

「俺は花宮が好きだから

何とかしてやりたいって思ってる。

どれだけ突き放されても

それでも…

人と関わっても大丈夫だって

証明したいんだ」

風花はそんな俺を鼻で笑った。

「陽人が好きなんだって事は

私も蓮司も知ってたよ!

何年幼馴染やってると思ってんのよ。

応援してるから、頑張りな!

それで、花宮さんを苦しめる

ものから救い出してあげて…」

頭を下げる風花に驚きながらも

俺は頷いた。

蓮司は無表情のままで

「馬鹿で鈍感で天然のお前には

不安しかねーけど

それは風花と俺がフォローして

やるから…

お前の思う通りにやれ」と

最後には少し笑った。

馬鹿で鈍感で天然ってのは

気に入らないが、

誰よりも近くに居る幼馴染が

こう言ってくれてんだ。

俺は俺のやり方で

花宮を救い出してみせる。

絶対に諦めたりしねー!

疫病神なんて物騒なレッテルは

俺が剥ぎ取って蹴散らしてやる。

そんで、いつかのあの時みたいに

笑ってくれたら…

好きだって伝えよう。

何度でも…