泣いて泣いて、涙も出なく

なった私の心は

ぽっかりと穴が開いたような

感じだった。

退院する日、身寄りのない私を

迎えに来たのは、パパの遠い親戚

だと言う、白石律という女の人。

その人は、私の手を握り

しゃがみこんで、

「今日から日和ちゃんと

おばちゃんは家族になるの。

おばちゃんもパパとママが

居ないから、日和ちゃんと

一緒ね」と優しく微笑んだ。

でも、その笑顔は寂しげで

悲しそうだった。

「おばちゃんも1人ぼっちなの?」

私の言葉に小さく微笑んだ

姿が、私よりも大きいのに

小さく見えた私は、咄嗟に

抱きついた。

「日和がおばちゃんの傍にいる!

だから、1人じゃないよ」

抱きついた私に優しい声色で

「ありがとう、日和ちゃん。

おばちゃん、とても嬉しいわ。

おばちゃんも日和ちゃんの傍に

ずっといるからね」と笑った。

抱きしめたまま、私は頷いた。

それから、すぐに打ち解けた

私はおばちゃん…ではなく

律さんと呼ぶことにした。

律さんと呼ぶ度に、嬉しそうに

笑うから、私は嬉しくなって

何度も律さんと呼んだ。

退院してすぐ、律さんは

幼い私の代わりに通夜や告別式、

律さんの家に引っ越しする為の

手配など色々してくれた。

パパとママと暮らした家にあった

私の家具を1つ残らず運び出し

律さんが暮らす、平屋の木造の

一軒家に運ばれた。

私は、パパとママの写真が

沢山詰まったアルバムと

ママがパパから貰って

大切にしていたオルゴールを

綺麗に片付けられた部屋に

飾った。

片付けが終えた頃…

部屋に顔を出した律さんは

「日和ちゃんに見せたいものが

あるの。

律さんのお気に入り場所

なんだけど、来ない?」

笑顔で手招きをする律さんに

少しワクワクしながらついて行くと

そこには、綺麗なお花が沢山

咲いているお庭の花壇だった。

「わあ…すごくきれい!」

庭に続く石段を降りて

駆け寄る私に律さんは、

「ふふ、綺麗でしょ?

律さんのお気に入りの場所なの。

夏には向日葵も咲くのよー!

太陽に向かって真っ直ぐ、大きく!

日和ちゃんも気に入ってくれた?」

嬉しそうに言った。

私は律さんに向き「うん!」と

笑って返事した。

花に視線を戻して見ると、

赤、白、黄色、オレンジ、ピンク

形も色も違う花が

キラキラしていて、すごくきれい。

ママもお花が大好きだった。

いつか、大きな花壇を作ろうねって

約束したんだよ。

でも、もうママはいない…

俯きかけた私に、律さんは

ある一角を指差して言った。

「日和ちゃん、あそこには

まだお花がないの。

何を植えようか悩んでるんだけど

何を植えたらいいと思う?」

律さんの指差すそこは、

土はあるけどお花がない。

どんなお花がいいだろう?

首を傾げながら、考えて

私はママの好きだった花の

名前を言った。

「バーベナがいい…」

「バーベナ?

日和ちゃん、バーベナが好きなの?」

黙って頷くと、突然立ち上がった

律さんは、駆け足で家に戻り

お財布を持って戻って来た。

「じゃあ、今からバーベナの

種を買いに行こっか?

あそこは日和ちゃん専用の

花壇にしましょ!」

ニコニコ微笑む律さんに、

おそるおそる尋ねた。

「でも、ここは律さんの

お気に入りの場所でしょ?

日和の好きなお花、

植えていいの?」

「もちろん!

今日から律さんと日和ちゃんは

家族なんだから」

律さんは思い立ったら、すぐに

行動にうつす人だった。

その日のうちに、近くの

ホームセンターで購入した

バーベナの種を私専用の花壇に

植えた。

お花のお手入れの仕方や

水遣りの仕方まで、ゆっくり

丁寧に教えてくれた律さん。

その日、ママではない人が作る

ご飯を初めて食べた。

温かくて優しい味で、それは

律さん自身を表すような

ご飯だった。

次の日、お通夜が開かれ

私の代わりに喪主として

律さんは会場を右往左往していて

私はパパとママが眠る棺桶の

傍からじっと見つめていた。