『あんたさえ産まれてこなければ

小春は家を出ることも

こうやって死ぬことも

なかったのよ!!

なのに…なんで、あんただけ

生き残ってるのよ!

あんたが死ねばよかったのに!!

この疫病神!!』

そう言って泣きながら立ち去る

女の人の後ろ姿を見つめて

私は心の中で謝った。

『ごめんなさい…』って。

ピピピ…ピピピ…

朝の5時を知らせる目覚ましに

むくりと起き上がり、

布団から手を伸ばして止めた。

私、花宮日和(はなみやひより)は

この平屋木造の一軒家に

1人で暮らす、17歳の高校2年生。

私に両親はいない。

事故に巻き込まれて死んで

しまった。

途端に静かになる部屋を

後にした私が、真っ直ぐに

向かう場所…

それは、私の両親と律さんが

居る仏壇の前。

お線香をあげて、写真の中で

微笑む3人に「おはよう」と

挨拶をするのが、私の日課。

そして、心の中で

呪文のように呟く言葉…

それは「ごめんなさい」の一言。

当時小学3年生だった私は、

クラスで仲の良かった友達から

遊園地に行ったという話を聞き、

帰るなり、パパとママに

遊園地に行きたいと駄々をこねた。

貧乏ではないけれど、決して

裕福でもなかった私の家。

パパはサラリーマンで

ママは近くのスーパーでパートを

して毎日忙しく働いていた。

幼い私でも、生活が困窮している

事は十分分かっていたけど、

その時は、友達が羨ましくて

珍しく駄々をこねた。

そんな私に、パパとママは

笑顔で言った。

『日和はいつも頑張り屋さん

だから、ご褒美だよ』と。

そして、その週の日曜日

夏の日差しに照らされる景色を

鼻唄を口ずさみながら

時折振り返るママと笑い合って

パパの運転する車で、遊園地に

向かって走っていた。

でも、その時事故は起こった。

対向車線を大きくはみ出した

車に激突され、私は意識を

手放した。

そして、気が付いた時には

病院のベットにいて

私の腕に繋がる点滴を替えようと

する看護婦さんと目が合った。

「あ、目が覚めたのね。

日和ちゃん、先生呼んで来るから

少し待っててね」

そう言って立ち去ろうとする

看護婦さんに私は尋ねた。

「パパとママはどこ?」

すると、一瞬目を伏せた

看護婦さんは次の瞬間には

笑顔になって、こう言った。

「とにかく、先生を呼んで

くるわね!」

足早に去る後ろ姿を

私はじっと見つめていた。

事故が起きた時から、その後の

事がよく思い出せない。

パパとママはどこ?

どうしていないの?

1人ぼっちは寂しいよ…

頭が混乱している私に、

お医者さんが言ったのは、

とてもじゃないけれど、

信じる事は出来なかった。

「日和ちゃんのパパとママは

事故で亡くなったんだ」

「そんなの絶対に嘘!

パパとママは私を1人になんか

しないもん!!」

お医者さんを睨んで私は言った。

だけど、歩けるまでになった

私が連れてこられたのは、

地下の薄暗い部屋で、

扉を開けると、そこには

ベットが2つ。

白い布を掛けられて、目を瞑り

冷たくなった、パパとママで

私は駆け寄った。

「パパ!ママ!

起きて!

遊園地に行くんだよ!

頑張ったご褒美、まだ私

貰ってないよ!

早く行こうよ!」

必死に叫んで揺すっても

パパもママも何も言ってくれない

動いてもくれない。

ただ静かに横たわっているだけ…

本当に死んじゃったの?

もう、私の名前を呼んでくれないの?

笑ってくれないの?

どうして私を1人ぼっちにするの?

置いていかないで!!

私は冷たくなった

パパとママの手を握って

泣き続けた。