ーーー結弦君は、怖くない。



泉の小さな手。

何も知らない無垢な瞳。

女の子らしいフリルのスカートから見える細く綺麗な脚。

きつい香水とは違う、いやらしくないシャンプーの香り。



泉といると、俺が俺でなくなるーーー。




「結弦君!!」



小走りで俺の元へきた泉。

普段から運動はあまりしていないんだろうなと思わせるほどいつも息切れしている。



「ごめんね、待った…?」

「全然待ってないよ」

「よかった…」



すぐ隣に座る泉からはいつもの匂いがする。

一度だけ握ったあの手を見ると、もう一度握りたくなる衝動を必死に抑え込む。



「そうだ、結弦君いつも私の話たくさん聞いてくれるからお礼にこれをどうぞ!」



泉が渡してきたのはなにやら小さな紙袋。
甘い焼き菓子の匂いがする。
中を開けるとクッキーだ。



「泉がつくったの?」

「そうだよ」

「うまそう…」



こういう所も、女の子なんだなと思わせてくれる。



一度下ろした右手が軽く泉の手とぶつかる。



ーーーやばい。



衝動が抑えきれず軽く手を握った。

やっぱり小さな手。

強く握ったら潰れてしまいそうな程に。



「……結弦君の手は大きいね」

「怖くない?」

「うん、全然怖くない」



まだ、彼氏とは手を握ってないのだろうか。

握っていてほしくはないと思ってしまう俺は…一体なんなんだろう。