俺の足は自然と、良く行く海辺と向かっていた。


マイナスな出来事が俺を襲った時、俺は海辺へ行っては日が暮れるまで海を眺める、という行為を繰り返している。


何時でも静かな海辺は、心を落ち着かせる場所に適していた。

それに、太陽が太陽に負けないぐらい大きな海を茜色に染めていく瞬間を眺めていると、いつの間にか前向きな気持ちになれるのだ。



「あーあ、振られちゃったな」



道無き道を一人歩きながら、そう呟く。


四年近く彼女に片思いしていたのだ。

気持ちの切り替えが得意な俺だが、今回ばかりはそう簡単に気持ちが晴れると思えない。


そもそも、少しでも期待した俺が馬鹿だったんだ。

目が合えば、優しく手を振ってくれる。
一目惚れをしたあの笑顔で話しかけてくれる。
休日に「一緒に遊びに行こう」と誘ってくれる。
手作りのマフィンをくれる。
誕生日には、キーホルダーをプレゼントしてくれる──。


そう、たったこれだけで期待した僕が馬鹿だった。

だから全部、俺が悪いんだ。




「こんなの、期待するに決まってるだろ……」



心のどこかで、俺と先輩は両想いなのかも知れないという下心が俺の中にずっとあった。


人は、自分の都合の良い様に物事を置き換えてしまうとよく言う。

冷静に考えてみれば、先輩のあの行為は俺だけじゃないということは明確だった。
遥だって先輩に話しかけられていたし、マフィンだって貰っていた。


彼女の人柄の良さから考えれば、こんなことはきっと日常茶飯事だったのに。


──俺の馬鹿野郎!


心の中で声を張り上げて哭き、視界に入った石を思い切り蹴飛ばす。

小さな悲鳴を上げて転がっていった俺の想いは溝に落ち、悲しそうに俺を見つめていた。