**


…ギィ…


明け方、一人城を出た。

冷たい空気が吹き付ける。


…コツ…コツ…


石造りの道の脇には荒地が広がり、花は一輪も咲いていない。

そんな地獄のような大地とは対照的に、空はやけに真っ青で、夜と朝の間のような綺麗な瑠璃色をしていた。

彼女のいる空はひどく高く、遠く見えた。

…と、その時だった。


「死んだような面だな。」


「!」


どこからともなく男の声がした。

はっ!と、崩れていた思考が動き出す。

後ろを振り向くと、背後には見覚えのある腕章をつけた男がいた。

トランプの刺繍の入ったマントが夜風になびく。


「…ジョーカー…」


ぽつり、と僕は呟いた。

抗おうとも逃げようともしない僕に、男性は無表情のままこちらを見つめる。


「…捕らえにきたのか?…人間を捨てた完全な魔法使いでもない僕を…」


すると、彼は微かに目を細めて「いや、」と呟いた。

そして、懐から何かを取り出して僕に差し出す。


「俺はジョーカーの“ロミオ”。…お前に文(ふみ)を預かった。」


(“文”…?)