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ピチチチ…
穏やかな日の光。
朝の気配にゆっくりと目を開ける。
視界に映るのは見慣れない家具たち。
(…そうだ。僕は、昨日エラの家に泊まったんだ。)
センスのいい調度品の数々がキラキラと朝日に照らされている。
むくり、とソファから起き上がると、リビングにはチェシャの姿がなかった。
「チェシャ…?」
(自分の部屋にいるのかな。)
この家の住人ではない僕が、好き勝手にうろうろするわけにはいかない。
階段の上の部屋をちらりと見た僕は、洗面所だけ貸してもらって、ざばざばと顔を洗った。
…ぽたり。
滴る雫をぼんやりと見つめる。
(…今日、もう一度城に行こう。チェシャを危険に晒さないために、1人で。)
チェシャには出かける前に魔法をかけて貰えばいい。
このまま何もしないでいるわけにはいかない。
僕とエラには、時間がないのだから。
ガチャ…
(!)
その時、ふと玄関から物音がした。
視線を移すと、フードを目深にかぶったチェシャが扉から顔を出す。
「!チェシャ。こんなに朝早くに外に出てたの?」
一体どこへ、と尋ねかけ、僕は、はっ!と声を詰まらせた。



