(…!!)


ガッ!!


無意識に、トレメインの腕を掴んでいた。

ギリギリと手に力がこもる。


「ミナト…!!」


切迫した表情のチェシャが目を見開く。

トレメインは、余裕の笑みで僕を見上げた。


「…私が憎い…?いいわよ、恨んだって。…貴方の心に永遠に残るなら、それでも構わないわ。」


「…!」


この感情を、どうぶつけていいかわからない。

強い憤りとやるせなさがこみ上げた。


(こいつが…。こいつが、エラを追いやった…!)


「…どうして…」


無意識に言葉が溢れる。


「どうして、こんなことが出来るんだ…。エラは…あの子は、ずっと母親を信じていたのに…!」


しぃん、と辺りが静まり返った。

数十秒後、トレメインの声が響き渡る。


「…私よりも幸せになって、大切な人に愛されている娘が気に入らない。…ただ、それだけよ。」


(…!)


ばっ!


掴んでいた腕を離した。

よろめいたトレメインは、まつげを伏せる。

突き放すような冷たい声が零れる。


「…二度と顔を見たくない。あんたになんか、触れられるか。」


チェシャが、僕の声にびくり、と震えた。

行き場のない怒りが静まらない。

心が、壊れる。


「…また、会うことになるわ。」


薔薇色の瞳の魔女は、表情を変えずにそう言い残し、僕らの前から消えたのだった。