一瞬、思考が止まった。

何を言われているのかが理解できなかった。

トレメインが死ぬまで契約が続くことはわかる。

問題はその後だ。


「“愛す”…?僕が、あなたを?」


「ええ。…心からの愛なんてなくても、演じてくれるだけでいいわ。」


(!!)


トレメインは、薔薇色の瞳を鈍く輝かせて続けた。


「…貴方の恋人はやがて処刑される。二度と会えなくなるなら、私を代わりにすればいいわ。…夫を亡くした私なら、貴方の悲しみを理解してあげられるでしょう?」


ぞくり…!


恐怖よりももっと別の感情で体が震えた。


“この魔女は歪んでいる”


そう気付いた時には、もう遅かった。

その時、魔女と出会った時の記憶が蘇る。


“人間と懇意になったスパイ容疑で、ジョーカーに“密告”されたのよ。…やがて、城の地下牢につながれるでしょうね。”


「…どうして貴方はエラが密告されたことを知っているんだ…?ジョーカーでもないはずなのに…」


するとその時。

感情のない薔薇色の瞳が、震える僕をくっきりと映した。


「そんなの決まっているじゃない。…私が密告した張本人だからよ。」