それは、願ってもみない提案だった。

しかし、トレメインの表情は“善意”ではない。


「…“契約”を結んだ後は、好きにどこへでも行けばいいわ。私の魔法は“魔力を消す”。たとえジョーカーに攻撃されても、何の問題もない。きっと、彼女にも簡単に会えるでしょう。」


“うまい話には裏がある”


疑いの視線に気づいたのだろう。

トレメインはくすくすと笑って僕に続けた。


「…頭がいいのね。…だけど、もし私の提案を蹴ったとして、この先どうするつもり?」


「!」


「“どんな契約だったとしても”、あなたに断る選択肢はないんじゃないかしら…?」


どくん…!


心臓が鈍く音を立てた。

確かに彼女の言う通りだ。

この世界に、僕の味方は1人もいない。

僕を知る者は、“エラ”しかいないのだ。


“湊人くん”


彼女は、危険を冒してまで僕に会いに来てくれた。

こうなることを知っていて、運命に抗おうとしてくれた。

僕が、ここで彼女へと繋がる最後の希望を断ち切るわけにはいかない。