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「おはよう、湊人くん。」


3日後。

エラはいつも通りの笑顔で僕の前に現れた。

興味津々、といった様子の友人たちと別れ、僕はエラと並んで歩き出す。


「…あ、そうだ。エラ。」


僕は、鞄から、すっ、と例の本を取り出した。

分厚い小説を受け取った彼女は、目を輝かせてそれを見つめる。


「わぁ、ありがとう…!いいの?借りても。」


「うん。映画に行った日に渡しそびれてごめんね。」


へにゃっ、と笑いながら僕を見上げる彼女は、何かを隠しているようには到底思えなかった。


「…エラ。」


「?」


「あの日、エラを夜道に送り出したことを後悔してたんだ。…一人で、怖くなかった?」


僕の言葉に、彼女はにこりと笑って答える。


「ううん、大丈夫。湊人くんのおかげで助かった。…ありがとうね。」


さらり、とそう言った彼女に、僕は頷いて微笑み返した。

それとなく“あの夜のこと”について触れてみたが、彼女の反応に変化はない。


(…やっぱり、路地を歩いていたはずのエラが“急に消えた”なんて…あるはずがないよな。)