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────ぱっ!


静かに、館内の照明が点灯した。

ガタ、ガタ、と、お客が席を立つ。

上映を終えたスクリーンは真っ暗で、彼女はどこか遠い目をしてそれを見つめていた。


「原作と、ラストは違うんだね。」


劇場の廊下を歩きながら、僕は彼女にそう言った。

声をかけられた彼女は、小さく「うん。」と答えて言葉を続ける。


「…切ない別れで終わるはずだった恋人たちが、最後は結ばれてハッピーエンドになったね。」


幸せな展開を迎えたわりに声のトーンが低い彼女。


(原作のファンだから、納得がいかないとか…?まぁ、それは僕も思う点はあるけど…)


「…面白くなかった?」


「えっ!う、ううん!そうじゃないの…!すごくよかった…!!」


しかし、彼女はわずかにまつ毛を伏せて呟く。


「やっぱり人間って、決まっていた物語の結末を簡単に変えちゃうんだって思ったら…少し怖くて。」


彼女がなぜ怖がるのか、僕には分からなかった。

だけど、彼女があまりにも真剣な表情でそう言うものだから、僕は無碍にも出来ず、じっと彼女の真意について考えた。

僕は、彼女にそっ、と告げる。


「…確かに、物語の中の人物からしてみれば、人間の操作で人生が変えられて、決められた展開に一喜一憂するのが馬鹿馬鹿しく思えてしまうのかもしれないけど…。僕は、悲恋の主人公が幸せになってもいいと思うんだ。」


「え…?」