彼女は、数秒固まって僕を見た。

人のいない車内で2人の間に沈黙が流れる。


「…それは…“下心”ってこと?」


「…そうなるかもね。」


上目遣いで尋ねた彼女に、僕はさらりとその視線をかわす。

彼女は、電車の音を聞きながら静かに呟いた。


「それは、“ちょっとワルイヒト”だね。」


「うん。ごめん。」


彼女は「でも…」と小さく続ける。

その時。

彼女は、初めて僕の手に触れた。


(…!)


そっ、と絡められた細い指が、少しだけ熱を持っている気がする。


「…湊人くんならいい…」


電車が揺れる音にかき消されてしまいそうなそのセリフは、確かに僕の耳に届いた。


「…そっか…、よかった。」


僕の返事を聞いた彼女は、微かに頰を赤くして黙り込んだ。

僕は、頰の赤みがチークのせいだと、気が付かないフリをした。

きっとお互い、その先の言葉を口に出来なかっただけなのだ。

ただ、僕は確かに

彼女が僕に対して抱く感情が、僕と同じであることを感じていた。