木漏れ日が差し込む窓際の席。

いつも、僕はそこに座って、難しい文ばかりが並ぶ本を読んでいた。

流れ作業のように文字を追う僕の視線が
“彼女”にとまったのは、僕の読んでいた本が
つまらなすぎたからなのだろうか。

それとも…

大学の図書館にいるのにも関わらず、“童話コーナー”で何冊もの本を抱える彼女がひどく異質に見えたからなのだろうか。


(…あの子、いつもこの時間にいるな…)


ふと、そんなことを思い出したのは
つい2週間前。

僕──橘 湊人(たちばな みなと)が大学の図書館でいつものようにぱらぱらと本のページをめくっていた時のことだった。

子どもと関わる仕事や、小学校に勤める人を育てるための児童学部の生徒が利用する“童話コーナー”に彼女はいた。

1度も染めたことがないような純粋な黒髪。

肩口まで伸びたその髪を片方耳にかけ、彼女はひたすら新書の絵本を手に取っていた。


(…実習で使う絵本でも探しているんだろうか。)


初めは“可愛い人だな”くらいに思っていた。

あんな人が同じ大学にいたのかと、そう思う程度だった。

彼女は、何を必死になっているのか、と思うほど何冊もの絵本を見比べ、まるで見落としがないか探しているようにも見えた。

そして、あらかた本棚を物色し、満足げな顔をして数冊を脇に抱えて出て行くのだ。