その薄っぺらいポーカーフェイスを崩したかっただけだった。


「実優ー。次、移動教室だって」


セミの声が遠退いた季節。ぼんやりと窓を眺めていた私に友達が言った。


「んー、今行く」


気だるい返事をして、銀色の窓のレールから手を離す。


「澤田せんせー!」

中庭の声は三階までよく届く。まだ初々しさの残る一年生が教師に甘えた声で近づき、わざとらしく腕に触る。


……バカみたい。


私はそんな光景を睨み付けるようにしたあと、窓から離れた。