誓約の成約要件は機密事項です

高林は、至極感じの良い男性だった。

千帆が当初抱いていた条件を全て満たしていたし、言葉にできていなかった漠然としたイメージを上回る好青年だった。

実際、一緒にいて千帆も楽しかった。

高林との出会いからついさきほどの言葉までを思い返し、千帆は決意を固めた。

「千帆!」

その時だった。

千帆は、後ろから腕を捕られ、力強く誰かに引き寄せられた。

背中が、がっちりした誰かに当たる。

この感覚を、千帆は知っていた。たった一晩で覚えてしまった人の体だ。

「……副社長!?」

「千帆、行くな。頼むから、行かないでくれ!」

息を切らした涼磨は、後ろから千帆を抱え込み、強く抱き締めた。

涼磨が持っていた花束が、目の前で揺れる。

「ちょっと……何なんだ!?」

「……失礼。けれど、千帆は渡さない」

驚く高林に目線だけ謝るものの、涼磨は千帆を離さない。それどころか、さらにきつく抱き込んでくる。

千帆は、バランスを崩して完全に涼磨に寄りかかっているというのに、その体重をものともしない。どうにか離れようと千帆がじたばたするが、拘束は強くなるばかりだった。

千帆にしてみれば、訳が分からない。