いいとも悪いとも言わないうちに、手でつまんでいたチケットを取り上げられてしまった。

涼磨は、それを持ってカウンターへ行き、戻ってくる。

「飲み物は?」

「これから買おうと思っていました。それより、チケットを返していただけますか?」

「何がいい。紅茶か?」

「いえ、自分で買いますから」

「何か食べるか? ポップコーンか?」

「いえ」

「何味がいい? 嫌いか?」

「いえ」

聞く耳を持っていない。

戸惑いから怒りに変わる寸前で、それまで明後日の方角を向いていた涼磨が、急に千帆をのぞき込む。

「一人では食べきれないから、手伝ってくれないか」

「……そういうことでしたら」

近づいた距離に、思わず一歩下がりながら、譲歩する。

映画が始まるまでは、まだ少し時間がある。その間に食べればいいだろうか。

結局、紅茶とポップコーンを買ってくれてから、千帆の散々の催促によって、ようやく涼磨はチケットを返してくれた。

「……これ、違いますよ。私のじゃありません」

交換するべく、涼磨が手にしていた方のチケットも受け取る。

プラス料金で座れるプレミアムシート。二枚のチケットは、連番だった。