オペ室に微妙な空気が流れようとも、早瀬先生は順調にオペを続けた。

 『微妙な位置にある』と言っていた血腫も難なく綺麗に除去し、出血源を特定すると、あっという間に止血する早瀬先生。

 藤岡さんの脳は腫れてしまっていた為、木南先生がオペ前に説明していた通り、頭蓋骨は戻さずに皮膚だけを縫い合わせてオペは終了した。

 時間にして2時間弱。見事な手術だった。

 「お疲れ様でした。ありがとうございました」

 オペを終えた早瀬先生に、木南先生が頭を下げた。

 「お役に立てて光栄です。…頼って頂けて、手が足りない時に私の事を思い出してもらえて嬉しかったです。また何かありましたら声を掛けてください」

 『こちらこそありがとうございました』と早瀬先生も頭を下げる。

 「今後は外科の先生の手を煩わす事のない様、気をつけます」

 顔を上げ、誰が見ても作っていると分かる笑顔を早瀬先生に向ける木南先生。

 「煩わしくなどありません。社交辞令じゃないですから。遠慮なんか…をしているわけではない事は分かっていますが、私で何かお手伝いが出来る事があれば是非呼んでくださいね」

 早瀬先生は、悲しそうな目をしながら木南先生に笑い返すと、オペ室を出て行った。