クールな部長は溺甘旦那様!?

「君、これがないと困るだろう?」

すっと目の前に差し出されたのは、てっきり失くしたと思っていた社員証だった。

「あ! 私の社員証!」

どうしてこれを剣持部長が? あ! もしかしてあの時……。

社員証を失くした場所になんとなく覚えはあった。ラウンジで初めて剣持部長に会った時、ぶつかった弾みでバッグの中身を床にぶちまけてしまった。落としたとしたらあのタイミングしかない。

「大事なものだろ? 新任早々俺に始末書なんて見せてくれるなよ、松川莉奈」

「な……」

眼鏡のブリッジをクイッとあげて、わざとらしく私の名前、しかもフルネームで呼ぶと唇の端をあげてニヤリとした。その笑みに、“また会ったな”という意図が感じられて、思わず真っ赤になってしまう。彼はそんな私を横目に、何も言わずオフィスを後にした。

ムカツク! なんなのあの男! あぁ~あの人が今日から私の上司だなんて……先が思いやられる。

剣持部長が私と再会してもさして驚いた様子もなかったのは、私の社員証を持っていたからだ。なるほどね、と自分の中で納得する。