クールな部長は溺甘旦那様!?

見間違いじゃない、人違いでもない。紛れもなく先週、赤坂の高級ラウンジで婚約者のふりをさせられ、挙句にいきなりキスをしてきたあの男だった。初めにあった時には眼鏡をかけていなかったから、なんとなく今と雰囲気が違う。

こんな神様のいたずらのような偶然があっていいのか。目を丸くして開いた口がふさがらない間抜けな顔をしていると、剣持さん……いや、剣持部長と一瞬目が合った。

なによ、なんでこっち見るの? やめてー!

すると、私の驚いた顔がさぞ滑稽だったのか、彼の薄い口元がほんの少し笑ったような気がした。彼だって、私がこの会社にしかもこの部署にいるなんてこと知らなかったはずだ。

それなのに、とくに驚いた顔ひとつせずにポーカーフェイスで淡々と今まで自分が海外支社でやってきた仕事や、これからここでどんな部署作りをしていくだとか話している。けれど、そんな彼の自己紹介も全く私の耳には入ってこなかった。