クールな部長は溺甘旦那様!?

とっくに夕日も沈んで、今夜は綺麗な下弦の月が夜空に浮かんでいた。そして星々が輝き、それに負けないくらいの夜景が眼下で瞬いている。

時刻は十九時。

どのくらいここにいるだろう。人が少ないからと言って、「ごゆっくり」の言葉に甘えてしまい、すっかり手元のコーヒーも冷め切ってしまった。テーブルの上に広げられた離婚届を穴が開くほど見つめるけれど、徐々に目がうつろになっていくのがわかる。

――優弥さんは剣持家のご子息として、相応しいご令嬢と結婚するのが自然の流れなのです。

なぜかずっとその言葉だけが胸に引っかかっていた。私はどこの名家の令嬢でもなく、ただの一般家庭に生まれたごく普通の庶民だ。剣持家の人はきっと彼にふさわしい家柄の女性と結婚することを望んでいる。剣持部長にとって、その方が幸せだというのなら、私はきっとためらうことなくこの離婚届にサインするだろう。でも、彼の気持ちをまだ聞かないまま、やはり離婚に合意することはできなかった。