クールな部長は溺甘旦那様!?

退院を左右する検査を終えた昼下がり。

はぁ、疲れた。体力下がっちゃったな……。

私は検査室から自分の病室へ戻るべく廊下を歩いていた。体力が落ちたこと以外、もうどこも悪いところはなさそうだけれど、一週間意識が戻らなかったことを懸念してか、検査に検査を重ねた。おかげで今日の午前中はそれで終わってしまった。

剣持部長は忙しいのか、ジンジャークッキーをくれたあの日から顔を見ていない。病室では電話もできないから思うように連絡が取れなくて歯がゆかった。彼の方からも連絡がないからなおさらだ。剣持部長はプロジェクトの責任者でもあるからきっと目まぐるしい日々を送っているに違いない。

便りのないのは良い便り。そんなことを思いながら角を曲がると、私の病室の前でひとり、五十代くらいの中年男性がすっと背筋を伸ばして立っていた。白髪交じりの黒髪を清潔に整え、見覚えのない人だけど私の病室は個室だし、用があるとしたら私にだと思う。

「あの……」

私が声をかけるとその男性と目が合い、恭しく頭を下げてきた。

「初めまして、松川……いえ、剣持莉奈さんでいらっしゃいますか?」

パリッとスーツを着こなし、凛とした口調から上品な雰囲気が窺える人だった。けれど、私が一番驚いたのは、彼が私の名前を松川でなく“剣持”と呼んだことだった。