「ここなら少しは話せるかな?」

怒りが爆発して周りが見えなくなってしまうと困る。だから、誰にも話を聞かれずにふたりきりになれる会社の屋外展望台で話すことにした。影山君はポケットから煙草を取り出して慣れた手つきで火を点けると、ふぅっと紫煙を細く吐き出した。

外の風はほんの少し生暖かく、寒さも感じないはずなのに私の指先は緊張しているのか、小刻みに震えていた。こうして影山君とふたりで話すのは初めてだ。普段は綺麗に輝いて見える夜景も、今は堪能している余裕などない。

「コンペの時に前野さんから聞いたの、予算変更の連絡は二週間前に影山君に伝言したはずだって、それなのに三日前になって連絡するなんて……。ねぇ、それってわざとなんじゃない?」

私には何となく彼が故意的に剣持部長に知らせなかったという確信があった。だから迷うことなく私はそう尋ねた。

「わざと……ね」

疑いの目を向けられても彼は驚きもせず、遠い目で夜景を眺めている。