松川莉奈マツカワリナ。と自分の名前が書かれた社員証の札をエントランスに向かいながらバッグにしまい込む。私は現在二十七歳の独身、彼氏(同棲中)アリ。大学を卒業してから何度か転職をして実績を積んだ甲斐もあってか、念願だった大手広告代理店への就職が決まった。

私の勤める“株式会社アルテナ広告社”は、東京目黒区にあるタワービルの五十階から五十五階に本社を構えていて、総社員数は約十万人、海外にもいくつか支社がある。

主に新聞や雑誌に掲載するマスメディア広告、ウェブサイトやアプリ、バナーなどのインターネット広告などを幅広く手がけていて、広告の仕事を獲得してくる営業部、企画書や広告物を作成するマーケティング部、広告媒体を選定する媒体部と、大きく分かれている総合広告代理店だ。私の所属している営業部は全部で二十人。みんな明るくて元気な人が多い。

都合が合えば部署内で飲みに行くこともあって和気藹々としている。一見華やかな業界に見えるけれど、実際は企画書制作、報告書制作などのデスクワークが多く、残業は当たり前だ。時には広告主である社内報告書を手伝ったりと、想像と違う世界に挫折する新入社員もいる。