「気にしないで今やっていることを続けてくれ」

そうは言っても、疲れ果てた彼になにかできないかと考えてしまう。

「コーヒーでも淹れましょうか? ちょうど私も一息入れたかったので」

「あぁ、すまない。頼むよ」

剣持部長とふたりきり。彼と結婚して一緒に住んでいるなんて会社の人が知ったらどう思うだろうか。これは、私たちだけの秘密だ。そう思うとなんとなく妙な気分になった。

「お待たせしました。ブラックでいいんですよね?」

「え? あぁ、よくわかったな」

剣持部長はいつもブラックしか飲まない。それは、オフィスでいつも見ていれば自ずとわかる。

剣持部長への自分の気持ちを自覚してからというもの、仕事をしつつ私は自然と彼を見ていた。そんな視線に、彼はまったく気がついていないと思うけれど。

「今、企画書の再検討中なんですけど、私の姉に取材してみようかと思ってるんです」

私もコーヒーを片手に剣持部長の横に腰掛ける。彼のそばに寄ると、いつもの爽やかなオーシャンブルーのフレグランスがほんのり香って、こうしてふたりで座っていると本当に居心地がいい。