青山のマンションを拠点としている剣持部長だけれど、朝起きたら彼がいるなんて思わなかった。

「昨日、ちょっと外に出てくるって言ってたので、ほかにあるご自分のマンションに帰ったんだと……」

「外に出るとは言ったが、帰るとは言っていない。生活に必要な物を青山にあるマンションの部屋に取りに行っただけだ」

「必要な物……?」

剣持部長の言っている意味がイマイチ飲み込めないでいると、彼は新聞を閉じてハァとため息をついた。

「メフィーアの企画を君に任せたからには、当然俺にもフォローの責任がある。密に連携をとることで効率のいい仕事ができるだろう?」

「それは、そうだと思いますけど……」

「俺の抱えている仕事のメインはメフィーアだがそれだけじゃない。ほとんどオフィスに戻れなくて君と顔を合わせることができないと、仕事の進捗状況が把握できない。俺にとっても都合が悪い、だから今日からこっちのマンションを生活の拠点にした。帰るところが同じなら、何かあっても即日対応できるからな」

そう言いながら剣持部長は椅子から立ち上がり、鏡の前に立つと手馴れた手つきでネクタイを結ぶ。