クールな部長は溺甘旦那様!?

時刻は二十時。

私はタクシーの窓の外で流れる夜景をぼーっと眺めていた。慎一に振られたことがいまだに信じられない。受け入れ難かった。まさかあんな別れ話をされるなんて、予想外の展開に自分の言いたいことがあまりうまく伝えられなかった。今になってじんわりとひとりになってしまったという虚無感が沸いて視界がぼやける。

「お客さん、赤坂のパークホテルでいいんですよね?」

するとその時、運転手さんが目的地近くになったのか、確認で私にそう尋ねた。

「はい。エントランス前までお願いします」

私が今向かっているホテルは、首都圏で数多くある高級ホテルの中でも随意一を誇るラグジュアリーホテルだ。

私が突発的に思いつきでここへ来た理由、それはなにもかも考えたくないこの状況から現実逃避すべく、一夜限りの豪遊をするためだった。ルームサービスもじゃんじゃん呼んで、広いバスタブに浸かりながらワインでも飲み直そう。いつもならこんな贅沢は躊躇するはずだけど、今夜は特別だ。