「あれ? 松川さん、こんな時間にオフィスにいるなんて珍しいね」

剣持部長とふたりだけだと思っていたオフィスに意外な人物が入ってきた。

影山君だ。

彼は剣持部長のデスク近くにある自分の席に着くなり、ハァと大きく息をついてネクタイを緩める。

「今戻りか?」

剣持部長が声をかけると、影山君はだるそうに「そうですけど?」と答えた。目も合わせず、部長に対して態度もなんとなく横柄だ。前々から思っていたけれど、おそらく影山君は剣持部長が気に入らない。影山君は剣持部長が営業部に来るまでは営業成績もトップでちやほやされていたのに、その注目はあっという間に剣持部長に持っていかれてしまった。

それが面白くないのだろう。彼はものすごく競争心の強い人で、私が外回りをしていた時にも時々チクリとするようなことを言ってきたことがあった。決して悪い人じゃないのだけれど……。