時刻は二十二時を少し回ったところ。これといって弾んだ会話もなく渋谷駅に着く。

「あの、時間も時間ですし、どこか店に入りますか?」

腕時計から剣持部長に視線を移すと、彼は少し申し訳なさそうな顔をして言った。

「これからいったん会社に戻って仕事があるんだ。すまない」

「え? これからですか?」

剣持部長は忙しい人だ。会社に戻ると言われて改めてそう思わされる。自分からドレスを買って欲しい、と頼んだわけではないけれど、わざわざこのために時間を割いてくれたのだ。

「あぁ、明日までに作らなないといけない書類がいくつかあるんだ」

「書類? それなら、私にもお手伝いできますか?」

「え?」

私の申し出に、剣持部長が意外だという表情で私を見た。

「資料があれば大丈夫です。それにふたりでやったほうが早く終わるかもしれないし。ドレスのお礼です」

心のどこかでお礼というのは口実なような気もした。剣持部長から時折見え隠れする疲労の滲んだ顔を見ていると、私はそう口走っていた。どうせまた「別にいい」って言われるんだろうな……。と思っていると。