十夜は、その兄皇子よりも宮中での評価が高いから、恐らく時期春宮、そして帝へと就くだろう。
そんな位の高い方が一言命じれば、誰であれ従わせるのは簡単なはずである。
例えばさくに会うにも、命じればさくから宮中へ向かうことで簡単に解決するし、命じれば無理矢理一夜を共に過ごすことだって容易であった。
けれども、十夜は命ずるどころか最後まで位を隠してさくに接していた。
それは、さくのことを従わせたくなかったのではないだろうか。
ありのままのさくを見ていたかったのではないだろうか。
若葉にそう諭されたさくは、十夜の去り際の言葉を思い出す。
そして、自分が十夜に対して感じてしまった恐怖に対し、はらはらと涙をこぼした。
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