「私が元チンピラの荒立龍弥の件を内緒に、と言ったからですか?」
「確かにそれもある。だが、単に私が乙女と二人きりで出掛けたいからだ」

どうやら綾鷹の中では現場検証の方が“ついで”のようだ。

「とにかく明日はよろしく」

綾鷹はそう言うと、「では私は風呂をもらうとするか、おやすみ乙女」と彼女の頭頂部にキスを一つ落として部屋を出て行く。

「現場検証兼デートねぇ……」

乙女の頬がジワジワと上がっていく。

「もう、何てエキサイティングなの!」

キャーッと一人身悶えながら、「明日はバッチリ取材しなくちゃ」とほくそ笑む。



翌日は初夏を思わす爽やかな風がそよぎ、、抜けるような青空が広がっていた。

「絶好のお出掛け日和!」

準備を整えスキップするように乙女が階下に降りると、綾鷹と國光が玄関前で何やら話をしていた。

「本当に私めがご一緒しなくても……?」
「ああ、今日は乙女とのデートだからな」

「はい?」と國光がハテナ顔になる。

「――ですが現場検証と紅子さんが……」

内密というのは世間に対してだけなのね。やはり紅子さんには正直に話しているんだ。綾鷹様まで従順にさせる紅子さんって……彼女の恐ろしさを改めて乙女は痛感する。