もう興信所しかないか…。
そう思い始めた頃。
『零士!! 鈴乃ちゃん、見かけたよ!!』
葵が血相をかえて、会社に飛び込んできた。
どうやら葵は、休みの度に出歩いて、鈴乃を探していてくれたらしい。
早速、葵と共に現地へと向かった。
『ほんとにここか?』
『ああ……間違いないよ』
葵とそんな会話を交わしながら見上げたのは、結婚相談所のビルだった。
『とにかく入会するか』
グズグズしてる暇はない。
他の男にかっさわられる前に鈴乃を見つけ出さなくては。
そんな思いを胸に、俺は同業者である『ベルマリッジ』のドアを開けたのだった。
初めは『偵察か何かですか?』と、入会を渋られたけれど、
『ちゃんと真剣に結婚を考えていますよ。さすがに自分のところの会員さんに、手を出す訳にもいかないので』
そう答えたら、あっさりと受け入れてくれた。
『とりあえず、30歳の方に条件を絞って頂けますか?』
俺がそう口にすると、スタッフの女性がハッとした顔で俺を見た。
『………村瀬様は26歳で、会社の経営をなさっている方……です……よね』
彼女はそう呟いてから、パッと顔を輝かせた。
『ぜひ、ご紹介したい方がいらっしゃいます!』
そう言って、彼女が画面いっぱいに出したのは、まさに俺が探し求めていた鈴乃の顔だった。
『すいません、彼女に会わせて下さい!! 出来るだけ早く!』
思わず立ち上がり、声を上げたのは言うまでもない。
こうして俺は、二度目となる本気の見合いを彼女に申し込んだのだった。
………………
そして、ついに今日。
半年振りに鈴乃と再会した。
何も事情を知らない鈴乃は、俺を見て埴輪のような顔で固まっていたけれど。
すぐにポロポロと目から涙を零した。
『鈴乃……。やっと見つけた』
俺は彼女の手を引いて、強く自分の胸に抱き寄せた。
その後、担当スタッフには席を外してもらい、鈴乃と二人で話し合った。
『零士さんが生きてて良かった』
直前に葵からの手紙を読んだという彼女は、涙を流しながら、しばらくそう繰り返していた。
鈴乃は言った。
自分がマンションを出て来た理由は、俺と麻里奈の会話を勘違いしてしまったからだと。
俺が鈴乃を捨てて、麻里奈を選んだと思ったのだという。
『鈴乃、ごめん。全部、俺が悪いよ。ほんとにごめんな』
鈴乃を抱きしめてそう言うと、鈴乃はブルブルと首を振った。
『違います。きちんと向き合わなかった私が悪いんです。私は零士さんにいつも遠慮してました。だから、零士さんと何でも本音で言い合っている麻里奈さんのことが、とても羨ましくて……嫉妬してました。どんどん自分に自信を無くして、零士さんを信じることが出来なかったんです。ごめんなさい』
『いや……俺が悪いんだよ。俺ね……鈴乃には弱いところや、みっともないところを見せたくなくて、いつも無理してた。仕事が切羽詰まってても、嫉妬で狂いそうになってても、鈴乃の前では余裕ぶって笑ってた……きっと、そういうのが鈴乃を不安にさせてたんだと思う』
俺は彼女を抱きしめながら続けた。
『だから、鈴乃を抱くこともできなかった。鈴乃に触れたら、感情のまま抱いてしまいそうで怖かったから。多分、俺は鈴乃が思ってるよりずっと嫉妬深い男だよ。独占欲も強いし…鈴乃のお兄さんのこと言えないくらい。とにかく俺は、鈴乃を愛しずきて、鈴乃に近づけなかったんだ』
懺悔するように呟くと、鈴乃が顔を上げた。
『そういうの……これからはちゃんと伝えて欲しいし、見せて欲しいです』
『そうだよね……ごめん』
『あ、いえ……私、零士さんなら、嫉妬とか束縛とか嬉しいですし……その……感情のまま抱いてくれても…構わないですから』
鈴乃は恥ずかしそうに俯いた。
『鈴乃』
愛おしさが込み上げて、彼女の頰にそっと手をかけた。
『ごめん、早速、理性崩壊しそうなんだけど……』
えっ?と顔を上げた鈴乃の唇を、俺はキスで塞いだのだった。
……………………
そして、今。
彼女は俺の胸の中で、スヤスヤと眠っている。
ベッドサイドに手を伸ばし、用意していたダイヤの指輪を手に取った。
明日の朝、彼女はどんな顔をするだろうか?
俺は愛しい寝顔を見つめながら、彼女の指にそっと指輪を嵌めたのだった。