アパートの前に止められていたのは、白のスポーツカーだった。

26歳で外車だなんて…。
結婚相談所のスタッフって、そんなにお給料が高いのだろうか?

そんなことを考えながらシートベルトを嵌めていると、村瀬さんが尋ねてきた。

「行きたいとこあった?」

「え? あっ。いえ」

そう言えば、考えるように言われてたんだった。

どうしよう。
お昼を食べるお店ってことだよね?
今ここで調べた方がいいのかな。

私が慌てていると、村瀬さんがこう言った。

「じゃあ、海でもドライブする?」

「え?」

海でドライブって…。

そっか
今日は、勝手にお昼だけだと思い込んでいたけれど。
“一日講習”だったのか。

ひとりで納得していると、「ん?」と村瀬さんが至近距離まで顔を寄せてきた。

「あ…えっと……よっ、宜しくお願いします」

ビクッとなって、慌てて頭を下げた。

恐らく私の顔はまっ赤になっていることだろう。
変な汗まで噴き出してきた。

今のはきっと確信犯なんだろうな。

村瀬さんはどこか愉しげな表情で、ゆっくりと車を走らせたのだった。


……


「相手の男性はどういう設定でいこっか?」

少しして、村瀬さんがそんなことを言い出した。

「え? 今から決めるんですか?」

もうてっきり、スタートしているものだと思っていた。
村瀬さんがすっかり恋人モードだったから。

「そう。今からだよ。希望ある?」

キョトンとする私に村瀬さんが言う。

「そう……言われても」

「じゃあ、とりあえず、相手は32歳の公務員。仙道さんの条件のもの静かで思いやりのある男性。今日が紹介されて初めてのデート…ってことでいい?」

「は、はい……」

私がコクンと頷くと、村瀬さんはニコッと笑ってそのままハンドルを握った。

そして、無言のまま10分経過。

「あの……」

「はい」

小さな声で村瀬さんが返事する。

「どうして何も喋らないんですか?」

「すいません…。僕、喋るの得意じゃないんです。つまらないですよね。本当にすいません」

「え? あっ…」

そっか。
もの静かな男性になりきってるのか。

でも、なんか私みたい。
何だか物まねをされている気分だ。

「いえ。こちらこそ……すいません」

仕方なく、私もペコリと頭を下げる。

そして、更に10分経過。
ダメだ。
車内がお通夜のように暗い。