お互いに涙が落ち着いたあと、お母さんが思い出したように話を切り出した。


「さっきの男の子」

「……森井くん?」

「そう。星夏の彼氏? かっこいいね」

「かっ!? ……か、彼氏じゃ……ない」


森井くんの顔が思い浮かんでしまい、必死にかき消す。

そうだ。あとでお礼のメッセージ送っておこう。


「え、違うの? だってあの子の家で髪の毛染めてもらったんでしょう? それに送ってもらって」

「あ、その……私が一方的に……連絡したの」

だから特別な関係なんかじゃないし、森井くんにとっても私はただのクラスメイト。

そう思うと胸がぎゅっと苦しくなった。



「ということは、星夏の片思い?」

「へ!?」

漫画やドラマの中でしか聞かない単語がぐるぐると脳内で回ってパチンと弾けた。



「……あんた、まさか自分の想いにも気づいてないの?」

「お、想い?」

「目が好きって言ってたわよ」

「目!?」


両手で顔を覆って、森井くんとの出来事を思い返す。

ただのクラスメイトだと思うと胸が苦しくなったのも、森井くんに触れられてドキッとしたのも、全部……全部好きだからなの?


「星夏はいずれリュウくんと付き合うのかと思ってたわ」

「リュ、リュウくんは幼なじみだよ?」

「まあ、リュウくんには舞花ちゃんがいるものねぇ」

「えっと……ふたりもそういう関係じゃないよ」


お母さん曰く、親同士ていずれ三人の中の誰かが付き合うんじゃないかと盛り上がっていたそうだ。

残念ながら、お母さんたちが望むような漫画みたいな恋が始まる幼なじみではない。私とリュウくんは兄妹みたいで、舞花ちゃんとリュウくんも友達以上の関係ではないのだ。



「上手くいったら、またうちに連れておいで」

お母さんはそう言ってくれたものの、自分の感情の名前が片想いだと教えられて頭がパンクしてしまいそうだった。